特集2
大切な人をなくしたとき…悲しみとどう向き合うか
~緩和ケア医の視点から~
緩和ケア医/公認心理師
木原 歩美
当院には2018年12月に開設した緩和ケア病棟があります。がんで完全に治ることを目指す治療が難しくなった患者さんが入院されています。残念ながらご病気によって亡くなられる方も多い病棟ですが、患者さんが困難と直面しながらも、その人らしく過ごせるようにケアを行っています。また、家族ケアの一環として、緩和ケア病棟で大切な人をなくされた方のための相談室を開設しています。
このような経験から、大切な人をなくしたときの心や体の変化、ケアについてお話しさせていただきます。
人にはいつか、必ず死が訪れます。しかしそれが最愛の人や親しい友人など、大切な人であった場合、どれほど辛く悲しいことでしょうか。大切な人を失ったとき、人は「悲しみ」という感情だけでなく様々な心と体の変化を経験します。
心と体の変化
頭の中が真っ白な状態になったり、気が遠くなるような感覚におそわれたりします。時には攻撃的な気持ちになったりすることがあります。
「もし早くに気づいていたら」「なぜ死んでしまったのか」と悔やみきれない気持ちばかりが現れ、自分を責めてしまうこともあります。
これからどうしていったらよいのだろうと思い悩んだり、あらゆることに自信をなくしてしまうかもしれません。
また、睡眠の問題、疲れ、食欲や体重の変化(増加・減少)など、体の不調がみられることもあります。その程度や表れ方は一人ひとり違うかもしれませんが、誰にでも起こり得る自然なことです。
悲しみによって心や体が反応するとき、どうすればよいでしょうか
無理に気持ちをおさえ込んだり自分を奮い立たせたりせず、気持ちを大切な誰かに話してみたり、日記やノートに書いたりするのもよいかもしれません。
休息を十分にとり、一人になる時間や、思い出をゆったりと感じる時間もよいかもしれません。時には散歩や軽い運動、おいしいものを食べるなど、ご自分にあった方法でのリラックスや気晴らしも大切です。
以前と同じようには、楽しめないことがあるかもしれません。それはとても自然なことなのです。そんなとき、身の回りにある小さな喜びを与えてくれるものを探してみてください。散歩の途中で出会った夕焼けの空や野の花の香り、あまいお菓子とあたたかいお茶をいただくひとときなど、気持ちをやわらげてくれることを大切にしてみてください。
少し勇気がいるかもしれませんが、周りからの援助を受け入れてみると良いなと思います。
大切な人をなくして悲しみが深い方がそばにいるとき
なんとか元気になってほしくて「大往生ですね」「時が解決しますよ」「元気出して」と声をかけたくなります。しかし深い悲しみを感じている人にとっては、励ましは辛く響いてしまいます。励ましよりも寄り添う大きな気持ちで関わっていただけたらいいなと思います。
世界情勢や感染症・災害など、現代は大切な人をなくす悲しみが深く複雑なものになりやすい時代といえます。悲しみにあたたかく寄り添う社会であってほしいと願っています。