京都民医連第二中央病院広報誌 2012年4月発行 vol. 17

宮川卓也医師

生理痛との付き合い方

京都民医連第二中央病院
内科・家庭医療科 宮川卓也

 初潮から閉経までの間の年齢層の女性の悩みの最も大きなもののひとつが生理痛でしょう。正しくは月経時痛ですが、これには何らかの病気に関連したものと、関連していないものがあります。痛みがひどく日常生活に差し障りがあれば、病的な痛みとして原因が有る無しに関わらず月経困難症の名で呼ばれることになります。月経困難症が起こるメカニズムを考え、代表的な疾患について解説を加えたいと思います。

生理痛とは

 子宮の筋肉(子宮筋:四肢の筋肉とは別の平滑筋という種類で、自発的に動かすことは出来ません)が収縮することにより起こります。つまり分娩の時の陣痛と全く同じことです。平滑筋は一般的にプロスタグランディン(PGs)と言う脂肪の一種の物質で収縮・弛緩の調節が行われます。子宮筋は、プロスタグランディンF2α(PGF2α)という脂肪の一種の物質で収縮します。このPGF2αは炎症を起こす物質としても知られており、痛み止めの薬(消炎鎮痛剤)は、このPGF2αの産生量を減らすものです。
  このPGF2αを最も多量に作るのが子宮内膜です。月経とは子宮内膜が剥がれ落ちることで、多量のPGF2αがばらまかれ、この作用で子宮筋が収縮し、生理痛が起こるという原理です。子宮内膜の量が多ければ、当然、月経の量は増加し、同時にPGF2αの産生量も増え、生理痛も強くなります。

排卵がおくれると子宮内膜が厚くなる説明。模式図図1 排卵がおくれると子宮内膜が厚くなる説明。模式図

 子宮内膜の量は、子宮内膜の厚み×面積に比例します。厚みを考えて見ます。子宮内膜は、女性ホルモン(卵胞ホルモン…エストロゲン)により厚くなり、排卵により黄体ホルモンが分泌されると増殖を停止し、受精卵の着床に備えます(図1)。月経周期が通常より遅れた時は、排卵が遅れたことを意味しますので、エストロゲンにさらされる時間が長く、子宮内膜は厚くなり、量も多く、生理痛が強いという関係になります(図1)。もう一つ子宮内膜の量が増える原因には面積の増加があります。これには子宮筋腫や子宮腺筋症(=内性子宮内膜症…子宮内膜細胞が子宮の筋肉層に侵入した場合)などにより子宮が大きくなり、子宮内腔が拡大する場合です。その他、子宮内膜にキノコ状の内膜ポリープという余分な組織が出来て面積が増大するときもあります。子宮筋腫は極めてありふれた疾患で、子宮腺筋症の症状も同じようなものですので、まとめて述べることとします。

子宮筋腫

子宮筋腫の発生部位図2 子宮筋腫の発生部位

 ひと口に子宮筋腫と言っても出来た場所で、症状が異なります。筋腫が出来る場所による分類は次の4つです(図2)。漿膜下筋腫…子宮の外側に発育して行くもの。大きくても、症状はあまりないのが普通です。壁内筋腫…子宮の筋肉内に発育するもの。子宮全体が大きくなれば、内腔が大きくなり過多月経の原因となります。粘膜下筋腫…子宮の内腔に向けて発育するもの。子宮内膜面に向けて発育しますので、粘膜の変形や圧迫を来すことにより小さくても月経量が多い(過多月経)とか生理痛が強い(月経困難症)などの強い症状を起こします。頸部筋腫…頸部から発生するもので稀です。子宮腺筋症は壁内筋腫と同じと考えても良いです。
  子宮筋腫は良性疾患ですので、原則的には治療の必要はないのですが、月経量が多く、造血剤では追いつかないような貧血があれば、治療の対象になります。筋腫の部位によって症状がちがいますので治療法も違います。漿膜下筋腫は、症状に乏しく様子観察が多く、粘膜下筋腫では症状が強く、手術療法が中心になります。壁内筋腫は大きければ過多月経による貧血を来たしますので、何らかの治療が必要になります。薬物療法としては症状を軽減するだけならピルも有効で、服用により、月経量が減少し、生理痛も軽減します。無効の時は、女性ホルモンの効果を抑えて筋腫の発育を抑えることが必要で、特殊な形の黄体ホルモン(ディナゲスト)あるいは男性ホルモン誘導体(ボンゾール)の投薬のほか、下垂体の卵巣向けホルモンを一時的に止めてしまうことを利用したGn-RHアナログ療法があります。月に一度の皮下注射を4~5回行いますと、月経が一時的に無くなり、筋腫は相当小さくなります。ただし、更年期障害のような症状や骨粗鬆症が現れることがあります。手術療法は最終手段です。子供さんが欲しい場合は、筋腫だけを摘出(子宮筋腫核出術)しますし、それ以外で症状がひどく大きければ、子宮ごとの摘出となります(子宮単純全摘術)傷口を小さくするために腹腔鏡で観察・処置の上、膣から子宮を摘出する方法(腹腔鏡補助膣式全摘術)や単純に膣から取る方法も筋腫の大きさによっては可能です。内膜下筋腫では比較的小さい内に筋腫を子宮鏡と呼ばれる内視鏡下に削り取る手術もあります。

子宮内膜症

 これらとやや毛色を異にするのが、子宮内膜症による月経困難症です。子宮内膜症は、簡単にいえば子宮以外の部分に子宮内膜細胞が飛び火してしまい、月経時にここで出血を起こす状態です。ダグラス窩と呼ばれる子宮と直腸間のくぼみや卵巣・その他の臓器を包んでいる腹膜面に飛び火します。こういう変な場所で、月経時に出血し、この出血の行き場所もないので臓器どうしの癒着を起こしたり、卵巣では血液が貯留してチョコレート嚢腫となったりするわけです。血液が腹膜を刺激するので、強い痛みが起こるのは当然のことです。前述の子宮腺筋症子宮を合併しなければ子宮は大きくなく、月経量はそれ程増えません。
  最後に治療ですが、これは子宮筋腫の薬物療法とほぼ同じです。卵巣にチョコレート嚢腫が出来た場合は、年齢によってはがん化の問題を考慮して腹腔鏡などで切除を要する場合もあります。不妊症のある女性で子宮内膜症がある方は、是非腹腔鏡を受けて下さい。癒着剥離をすることで、妊娠率は上がります。その他に月経困難症の原因にはクラミジアなどの感染症もあります。また異常の原因が見当たらない月経困難症もあります。この場合は、子宮内膜がなぜか自然に厚くなることが多いのですが、ピルを周期的に服用するのが効果的です。中容量や低用量のピルを1日1錠服用します。発がんとの関係が気になる方もあるでしょうが、ピル服用で卵巣がんは減少しますし、乳がんについても普通の閉経年齢(50歳ごろ)までで使用を中止するなら、殆ど増加はないと思われます。ただし、喫煙習慣のある方はピルの使用により血栓症が増加します。ほかには月経時に消炎鎮痛剤を使用するのも一般的です。一日3錠以上または1日1錠以上を3日間以上服用の必要のある場合は、原因疾患を確定し、その治療を優先させたほうが良いでしょう。その他、漢方薬も桂枝茯苓丸などが有効な事があります。

竹中章先生の外来

火曜日と金曜日の午前

受付:8時30分~11時30分