京都民医連第二中央病院広報誌 2011年7月発行 vol. 16
家庭医療学のお話
京都民医連第二中央病院
内科・家庭医療科 宮川卓也
はじめまして。4月から京都民医連第二中央病院で勤務している内科の宮川と申します。ぶどうと富士山で有名な山梨県出身で、子供のころから野球(観戦メインですが)と将棋が好きな少年です。医師を志したきっかけは「人の役にたつ職業につきたい」と子供ながらに思ったことですが、親族に医療関係者が多いことも間違いなく影響しています。両親(医療事務)、叔父(放射線技師)、叔母(看護師)、弟(看護師)、いとこ(香護師)、さらに別のいとこも薬学部院生とリハビリ専門学校生などなど、病院開設できてしまうほどの医療一族です。
家庭医療とは?
さて私が学んでいるのは『家庭医療』という分野になりますが、皆さんはこの言葉を聞いてどんな姿を浮かべるでしょうか? 科というと「消化器内科」とか「外科」という言葉をよく聞かれると思いますが、それらではなく『家庭医療科』。「家族を診る医者」でしょうか? 実はそれは私たちの役割のほんの一面です。ちょっと難しい表現をすれば
1 臓器・性別・年齢・その他専門性にとらわれず
2 患者と家族、地域住民の健康問題やこころの問題を
3 継続して担当し、また予防する医療分野
ということになります。わかりやすく言うと
1 胃腸や心臓などの専門分野だけを見るのでなく、幅広い分野を、子供から大人まで
2 皆さんやど家族の病気、こころの悩み、また体のちょっと気になることも
3 長年にわたって相談し、治療し、また病気になる前に予防もする
ことを目指しているのです。
一言でいえば“古き良き時代のまち医者・かかりつけ医”“現代版赤ひげ”という感じでしょうか。
具体的には
では少し具体的な例を示してみましょう。
みなさんは頭が痛くなったら、どの科にかかりますか?(神経)内科ですね。
鼻水・鼻詰まりなら? 内科か耳鼻科でしょう。腰痛なら、整形外科でしょうね。
もちろん私たち家庭医も、さっき述べたように「幅広く」診ますので、こういう症状にも対応します。ありふれた病気から隠れた大きな病気まで、見分けることも私たちの職務です。
では、「ここ最近慢性的にだるくて食欲がない。最近体重が減っている。お父さんも物忘れが出てきているようで、介護が必要になってきた。」だったら、どの科に相談したらいいでしょうか?
こういう時は難しいです。私たち医師にとっても難しい。ただの疲れかもしれないし、うつかもしれない。癌や結核が隠れていることもあります。一番よくないのは'いろいろな科でバラバラに検査をして、よく分からないままになってしまうこと。僕たち家庭医はこんな時、いきなりたくさんの検査をするのではありません。こんな時にどんなふうにアプローチするか。そのやり方は端的に言えば『身体的、精神的、社会的』です。
身体的
まずだるさや食欲不振はどれくらい前からあるのか、どんなふうに始まったのか、他にはどんな症状があるのか、今まで大きな病気があったか、何の薬を飲んでいるのか、などを聞きます。そして体を診察して、肺や心臓の音はどうか、押さえて痛む所はないか、などを見ます。実はこれだけで診断がつくこともあります。ただわからないことも多いので、それから血液検査やレントゲン検査などを行い、より情報を得て診断して'治療を行うことになるのです。
精神的
病気になったときは、誰でも不安になると思います。気分が沈んだり、イライラしたり、そんな感情を持ちながら病気と囲っていくのは大変なことです。先ほどの例では、自分の体のことと介護と、2つのことを気にしなくてはなりません。また介護の負担そのものが症状の原因になっていることもあります。うつ病などは典型ですね。皆さんがどんな不安を抱いているのか、時間が許す限り聞くようにします。不安を解消することも私たちの職務ですし、またそこから解決策が出てくることもあるのです。
社会的
実は病気には、皆さんの生活背景、歩んできた人生、周囲の人間関係が影響を及ぼしています。中でも特に家族の影響は非常に大きいと言われており、病気の原因になってしまうこともあれば、最大の治療になることもあります。患者さんとともに、その家族にも重点を置いて診療することが『家庭医療』といわれる所以です。先ほどの例では、父親にも病気があるのか、1人で介護しなければならないのか、仕事はどうするのか、介護サービスは使えるのかなど、家族の病気や家族関係、仕事、介護保険のことが密接に結び付いており、それらをできる限り解決することが大切です。生活の中身まで聞かれることに抵抗のある方もいらっしゃるかもしれません。伝えていただける範囲で伝えてほしいと思います。それが皆さんと私たちとの信頼関係を築き、問題を解決していく糸口になるのです。
こんなふうに書くと万能の医者みたいになってしまいますが、もちろん限界もあります。高度な検査や治療をすべて行うことは困難です。そんな時は周辺にある大きな病院の専門医に適切に紹介させていただき、皆さんにとって一番いい形で解決できるように尽力したいと思います。たとえば大きな手術が必要になれば、信頼できる病院に紹介します。そしてその問題が解決すれば、かかりつけ医として、どんな相談にも乗れるよう待っています。
いろいろと書きましたが、自分や家族の健康のことで気になることがあれば、とりあえず相談に来てください。皆さんが納得できるような解決方法を、完壁にとは言わないまでも提示できるように全力を尽くしたいと思います。