京都民医連第二中央病院広報誌 2015年11月発行 vol.24

シリーズおススメの一冊

 戦後生まれの私は、戦争の本当の怖さを知りません。私の父は学童疎開で新潟の祖父の実家で生活をし、母は3歳のときに終戦を迎えた為、戦争の記憶はありません。
 あるとき、晩御飯でカボチャの炊いたのが出たとき、父が「わしは芋や南瓜は大嫌いや。わしらの子どものころ、疎開先では毎日それしかなかった。今でも芋や南瓜を見るとあの頃を思い出すから、見とうも無い。あんな生活もう懲り懲りや」と言いました。そんな時何も知らない私たち子どもは「好き嫌いしたらあかんやん。」等、言い返しました。父からは「疎開」という言葉以外には戦争の生々しい話を聞くことはありませんでした。

 今回ご紹介する本は、当時小学校6年生だった歴史研究者の大牟田章さんが広島で学童疎開中に書かれた日記です。1945年7月から8月の1ヶ月あまり広島や長崎の原爆投下や終戦直前までの慌しいさなかに日常の疎開生活や子どもながらに感じたことがノートに書きつづられたものです。12歳の少年が書いたとは思えないほど立派な文字と文章にも驚きますが、B-29が上空をさまよう様子や修身教育、親と離れて暮らしている寂しさなど、文章を通じて生々しく伝わってきます。これらはあくまで学童疎開だけでの様子ですが当時の子どもたちがどれほどの苦労を強いられたかが非常によくわかりました。父の芋や南瓜嫌いも理解できました。戦争の現実を伝える語り部が育成されていると聞きますが、この肉筆と共に編集された本を、小学生の子どもさんから著者と同世代の方々にいたるまで読んで頂き、子どもの眼から見た戦争とはどのようなものだったかを理解していただければと思います。