京都民医連第二中央病院広報誌 2007年9月発行 vol. 9
消化器疾患とNST
NSTとはNutrition Support Teamの略
日本語では栄養サポートチーム
2004年▲
2007年▲
著者プロフィール
野崎 明
消化器内科
2000年滋賀医大卒
趣味/車 旅行 カメラ
家族/妻と娘(3歳)
●第二中央病院NSTの沿革
2004年
院内自主勉強会開始
2005年4月
NST正式稼動
2005年10月
日本静脈経腸栄養学会認定NST稼動施設
2006年4月
JCNT(日本栄養療法推進協議会)認定NST稼動施設
2007年4月
日本静脈経腸栄養学会認定NST専門療法士教育認定施設
1.NSTっていったい何?
みなさんはNSTという言葉を聞きなれないかもしれませんが、栄養にかかわることを栄養士だけでなく医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師・リハビリスタッフなど多職種でかかわるチーム医療をさします。具体的には低栄養状態の患者さんにどうすれば栄養状態がよくなるのかみんなで考えることです。
2.低栄養状態って?
きちんと食事がとれて、三大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)のみならずビタミン類やミネラルなどがきちんと充足できているのが健康な状態。なんらかの病気や老化などで食事がきちんととれなくなって栄養のバランスが崩れた状態をさします。
3.低栄養状態だと何が悪いの?
私たちは普通に生きていくだけでもエネルギーを使います。ましてや病気を治すためにはさらにエネルギーを必要としますが、そういったエネルギーが不足してしまいます。具体的には感染症の治りが悪い・傷の治りが悪い。筋力の低下が著しく体の動きも鈍くなる。かぜを引きやすく、感染症にもかかりやすい。などがあげられます。
4.具体的にどうやっているの?
毎週NSTのメンバーで回診を行い、栄養状態の悪い患者さんに必要なエネルギー量を計算して、食事内容・量の調整、補助栄養剤や薬剤の調整、点滴内容の変更などを主治医に伝えています。リハビリのスタッフが身体計測を行い、定期的に観察することで筋肉がついてきたとか、やせてきたなど評価していきます。
5.NSTがいることで何かメリットがあるの?
当院のNSTは2005年4月から稼動していますが、NSTが稼動してから褥瘡(床ずれ)の新規発症率が下がったり、胃ろうによる経腸栄養の患者さんに限れば平均の在院日数が約1ヶ月短くなるなどの効果がでています。そのほか、脳卒中後のリハビリの回復の度合いが早い・手術後の回復が早い・などが色々な施設で報告されています。
6.消化器疾患とのかかわりは?
消化器とは胃腸と肝臓・胆道・膵臓を中心に扱う領域です。もちろん食事とも大いにかかわりがあります。消化器領域の不調があれば食欲が低下して栄養状態が悪くなることが多く、これらの調子を整えることが病気にかかりにくくしたり、早く治すきっかけとなります。私は研修医のころから、食事が元気にとれる患者さんはたとえ高齢であっても回復が早く、全然食べられない患者さんはなかなか病気がよくならないと感じていました。NSTを専門にするようにしてからその実感はより一層増しています。
7.NSTをやってよかったことは?
患者さんの栄養状態をいかによくするか、を常に考えるのがNSTですので、逆に考えていかに栄養状態を悪くすること無くダイエットをするかということも考えてみました。そのおかげで、私は体重が81kgから71kgへ―10kgのダイエットに苦労することなく成功しました(2004年と2007年の顔写真比較)。いや、これは余計な話ですが…興味のある方は一度話を聞きに来てみてください。
8.今後のNSTは?
がんの患者さんの薬物治療(抗がん剤)をすると食欲がなくなり、体力が落ちることがあります。また、消化器がんの患者さんは食べられなくなることがあります。今私が注目しているのは、いかにして効率よくがんの薬物治療を行うのか、体力を温存しながら適切な加療とは何かという点です。このことをライフワークにしていこうと思っています。治療だけでなく、予防の面においても食事は重要で、食物繊維の摂取量の少ない方は大腸がんになりやすいなど、健康に生きていくために必要な食事の知識などを普及させたいと思っています。また現在のNSTは入院患者さんが主ですが、在宅や外来にも広げていきたいと思っています。これからもどんどん発展していくと思いますので、みなさんの温かい支援をお待ちしています。