京都民医連第二中央病院広報誌 2005年4月発行 vol. 2
大文字 春号
新しいキズの治療法 閉鎖療法
- プロフィール
- 名嘉山一郎
医師
京都大学医学部 1990年卒
● 専門 外科
1. ある日の外科診察室での風景
患者様は、膝をすりむいてこられた男性。
『それじゃ、
キズを見せてもらえますか?』
おもむろにキズを見る私。砂や泥が入り込んでいないことを確認すると
『そしたらキズきれいに
しましょうね。』
ここでそこらの百均で買ってきたソース入れに手を伸ばしキズを洗う私。ソース入れには、ぬるま湯が入っています。
『少し血がにじんでるので血止めの綿をのせて防水シールを貼っておきますね。
また明日血止めの具合をみて違うバンドエイドみたいなやつ(被覆材)を貼ることになるでしょう。』
ガーゼで水気をぬぐうと、そのまま白い綿をキズにのせて、透明なシールをキズに合わせてはさみで切り絵のように切り抜く私。机の下には図画工作の時間と見間違えんばかりの切りくず。
ここでキョトン顔の患者様から質問、
『あのー、消毒しなくて
いいんですか?』
すかさず飛び出す私の答えはこんな感じです。
『消毒すると、傷にしみたでしょう? あれは傷口を痛めつけていたから痛かったんです。だから消毒すると、キズを治す細胞も痛めつけられるんでキズが治るのが遅くなるんですよ。
痛くて治らない方が良かったら消毒するけど、どうしますか?』
さらにうんちくを傾けたいときには
『人間もサカナから進化したもんですから、人間の細胞も乾いてると仕事ができないんですよ。
最近はうるおい療法とか閉鎖療法といってキズを乾かさないようにしてキズを治すのが最新の治療でね、この病院もそれをやってるんですよ。』
こんな感じで外来でキズの処置をすすめています。
当院でケガをして診察にこられた患者様にはおもに『閉鎖療法』という治療法で処置を行っています。
この『閉鎖療法』、最近少年誌にも『うるおい療法』として紹介され、徐々に知られるようになってきているようです。当院では門院長の後押しもあって1年ほど前からキズに対する『閉鎖療法』に取り組んで参りました。
患者様のキズの具合を見て思うのですが、やはり『痛みが少ない』『キズあとがきれい』『治りが早い』ことを実感します。
2. それでは当院でのキズの処置について改めてお話ししましょう。
まずケガをして来られた方には、キズの状態を見て皆さんが嫌がる『縫う』必要があるのか、どうかを判断します。縫わなくても大丈夫という患者様にはキズを十分ぬるま湯で洗います。縫わないといけないキズの場合は、当然局所麻酔(痛み止め)の注射をして痛みを十分とってから洗います。このときも一番細い針(ツベルクリン反応にも使う小さい針です)で、できるだけ痛くないように注射します。
ここで大切なのは、キズは洗っても消毒をしないことです。
消毒はどうしてもしておかないと心配というお気持ちはわかりますが……
例えばわれわれ外科医が手術の時に一生懸命手を洗っても、数時間後には毛穴から元々人間の皮膚にいる菌が増殖してきます。キズを消毒しても同じように数時間後にはキズについている菌はもとのもくあみ、消毒の意味はありません。
しかもキズを治すための大切な細胞の働きを殺してしまったり、消毒薬のためにかぶれたりとキズにとって百害あって一利なしというのが真実です。
上列左=カルトスタット、上列中=カルトスタット、上列右=オプサイト、中列左=ハイドロサイトAD、左下=ハイドロサイト、右下=ディオアクティブドレッシング
そして被覆材(キズを覆ってなおす特殊なバンドエイドみたいなもの)の登場です。血をとめる綿のようなカルトスタット、水気をよく吸うバンドエイドのようなハイドロサイトやティエール、キズをうるおすシールのようなデュオアクティブ等々をキズの状態を見極めて選び、キズを覆います。これでキズを治すための細胞がうるおいのある環境の中でどんどん働くことができキズをはやく、きれいに、しかも痛みが少なく治すことができます。そう、被覆材が人工のカサブタの役割をしてくれているんですね。
ただ最初から化膿しているキズはまず化膿する原因となっているモノを取り除く必要がありますから、被覆材を使うのはキズの化膿が治まってからになります。
次の診察で被覆材の汚れ具合、つまりキズからのしみ出しの量にあわせて被覆材を選びなおします。こうして少しずつキズからのしみ出しが少なくなって、キズはカサブタを作ることなく、きれいな赤ちゃんの皮膚になって治ります。
まずは論より証拠。もしケガをしてお困りの際には、ぜひ当院外科外来をご利用下さい。
PS このうるおい療法のカリスマ夏井 睦先生の『新しい創傷治療』というホームページに『閉鎖療法』としてうるおい療法のことが詳しく紹介されています。興味がおありの方はぜひ
http://www.wound-treatment.jp/
にアクセスしてみてください。当院も閉鎖療法を実施している病院として参加しています。